「サキベジ」対談

111 長野市国保大岡診療所の内場廉所長と信州大学教育学部の寺沢宏次教授、長野市で情報誌「月刊ほっとパル」を発行する(株)アスク 小山秀一社長が中心となり、健康づくり運動を推進する民間団体「サキベジ推進協議会」を設立。
「先に野菜を食べる」「1日7000歩を目指す」「切磋琢磨できるコミュニティを作る」の三つを目標に掲げ、健康な地域づくりを推進していきます。
8月2日(日)に長野市で開催する「サキベジ」キックオフイベントを前に、同推進協会長の加藤久雄長野市長と活動の展開について話し合いました。(コーディネーターは小山社長)

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_ 加藤会長は大変健康に気を遣っているとお聞きしていますが、元気の秘訣を教えてください。


加藤
 第一に、物事を常に前向きに考えるようにしています。何があっても、これは「良いことの前触れ」と捉えています。おいしい物を食べていても、楽しいことをしていても、心が健康でなければ感動を得ることはできませんよね。  第二に、毎朝、まず野菜から、量もたくさん食べています。野菜を水にくぐらせてから電子レンジで温めれば、一度にたくさんの野菜を食べることができます。それと酢を入れたオリジナル野菜ジュースも。野菜なら何でも入れてしまいますよ(笑)。これを家族みんなで飲んでいます。家族とコミュニケーションが図れる朝食は、特に重視していますね。

内場 加藤会長は「野菜をたくさん食べる」ということを実践されていますが、実は医学の観点から考えても「ボリューム」「タイム」「バリア」という三つの効果が期待できます。  「ボリューム」とは量です。余計な食物を食べずに済むということ。生活習慣病として高血圧、高脂血症、糖尿病がありますが、そのほとんどは食べ過ぎが原因です。加藤会長のように野菜をたくさん食べることで、余計なものの食べ過ぎを防ぐことができます。  「タイム」というのは食べる時間です。脳が満腹と判断するまで、食べ始めてから約20分かかるといわれています。ですから、先にたくさんの野菜をゆっくり食べて食事の時間を調整すると、ご飯やおかずをたくさん食べなくても満足感が得られるのです。  最後の「バリア」とは、食事に含まれる糖分や脂質の吸収を抑制する効果です。野菜を先にたくさん食べることで、後から入ってくる糖分や脂質の吸収速度を遅らせることができます。その結果、生活習慣病の予防につながるのです。
_ 加藤会長は普段から万歩計を身につけて歩いているそうですが、忙しい中でどのように取り組まれているのですか?


加藤
 朝の通勤は基本的に歩いています。家から市役所まで15分ぐらいの距離。30分の距離なら長くて続かないかもしれませんが、15分なら近いですし、歩く道筋を気分によって変えたり、時間があるときは遠回りしたり、楽しみながら通勤しています。

寺沢 加藤会長のように歩くことは脳科学的に見てもとても良いことです。足が衰えると脳も衰えやすいということがわかっています。歩くと刺激をたくさん受けるので脳の活性化にとても効果的です。

加藤 朝、行き交う皆さんとのあいさつでコミュニケーションが図れるのも楽しみの一つです。

寺沢 実はあいさつも脳に良い働きがあるんです。自分から物事を発するという能動的な行動は脳を活性化させます。コミュニケーションをとることは精神的にもポジティブにしてくれるのでいいですね。  また、1日に7000歩以上歩くことで、体力や血液の状態が変わるということがわかっています。10年前から箕輪町では、私のゼミの卒業生が中心となり健康教育に取り組んでいます。約2.5万人の町民に1日7000歩以上歩いてもらった結果、一人あたりの医療費が年間7万から10万円ぐらい削減できたという実績があります。ここまで結果が良かったのは、毎日1万歩以上歩く人が多かったことも要因だと思います。

加藤 1日1万歩!? それは大変ですね。私は通勤で2300歩、1日トータルすると5000〜6000歩です。1万歩はなかなか厳しいですね。

寺沢 だから「まずは7000歩」なんです。10分歩くと1000歩ですから、加藤会長の場合、あと10〜20分歩けば達成できます。歩くことは足腰のトレーニングであることはもちろんですが、脳を活性化させ認知症を予防する効果も期待できるのです。

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_ 今、認知症の話がでましたが、これからますます高齢者が多くなり認知症の問題も増えていくでしょう。寺沢先生のゼミでは、認知症の問題に対して脳と運動の観点からアプローチされていますが、具体的にはどのようなことに取り組んでいるのですか。

寺沢 脳はプロセスによって学習します。ですから、ボタン一つで何でもできてしまう現代は、大事なプロセスを省略してしまっているので、脳も能力を伸ばしたり維持する刺激を失いがちになり、難しい問題も起こっているのだと考えています。認知症を防ぐ、あるいは進行を抑えるためにはさまざまな経験や体験が重要です。さらに「怒らないようにする」ことが大事なんです。周りの皆がどうしたら幸せに過ごせるか考えることが、ワンランク上の認知症の改善方法です。
そこで私たちは、脳を活性化させる課題や体力測定、運動を取り入れたカリキュラムで、認知症予防を含めた健康教育に取り組んでいます。参加者同士でコミュニケーションをとりながら運動の成果を共有します。お互いに切磋琢磨できるコミュニティを育むことで継続しやすい環境をつくっています。

加藤 最近はコミュニティが少なくなってきていますからね。

寺沢 コミュニティが減った理由は、何でも便利になったからだと思います。昔は田植えや稲刈りなど村総出でやっていましたが、耕運機や稲刈り機の発達で一人でできるようになりました。家庭でもそう。機械が優れているから一人で何でもできるようになってしまいました。これは社会学的に非常に大きな問題になっています。

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_ そこで「サキベジ推進協議会」を発足し、加藤市長に協議会の会長になっていただきました。推進協では、加藤会長も実践されている「野菜を先にたくさん食べる」「1日7000歩歩く」「切磋琢磨できるコミュニティを作る」の三つをセットに掲げた運動を「サキベジ」と称して、まずは長野市内に発信していきます。野菜をたくさん食べられる飲食店や「サキベジ」と思いを同じくする市内の店舗、企業さんに「サキベジ」のポスターやのぼりを広げていったり、社員の健康のために健康教育を取り入れる企業さんを増やしたりしていきたいと考えています。

内場 幸い信州は全国的にも野菜がおいしいところです。野菜を、体に良いから食べるということはもちろん、子どもたちが地元を離れたときに、長野の野菜ってこんなにおいしかったんだということを大人は子どもたちに教えていかなければならならないと思っています。

加藤 野菜をたくさん食べていただければ、消費量の増大も期待できますね。

寺沢 それに長野県は全国的に有名な長寿のエリアなので、「サキベジ」運動と連動して健康長寿を発信するのは意味があることなんです。「野菜を食べる」や「歩く」など、すでに個別にはどこでも奨励されていますが、「サキベジ」とセットで推進する点がミソ。長野市内の住民自治協議会32カ所で「サキベジ」を始めれば、長野市が健康長寿の面で、より全国をリードできます。来年は経済産業省の健康寿命延伸産業創出推進事業の一翼を担えるよう働きかけたいと思います。

加藤 それは良いですね。市民運動として「サキベジ」を続けていくには、共感できる仲間づくりという点で、市内32地区というよりも細かくエリアに分け、目標を決めていかなければなりませんね。現在65歳以上が「老年人口」に分けられていますが、74歳まで生産人口を延ばしていけたら最高ですね。健診の受診率アップも期待できますね。飲食店への浸透、企業へのトレーニング教育。そして32地区でのコミュニティ形成、それらが動き始めればすごいですよ。若い皆さんも含めて、多くの皆さんにこの活動を知っていただき、「元気で笑顔あふれるまちづくり」を進めていきたいです。

寺沢 医療費の60%が最新の医療技術に費やされているといわれています。その削減は難しいかもしれませんが、一番大事なのは「クオリティ・オブ・ライフ」。人生の質をどれだけ上げるか、いかに死ぬまで元気で、ピンピンコロリをかなえるかです。だから世界保険機構(WHO)や厚生労働省も健康教育を推奨しているのです。

_ そこで、来る8月2日(日)に「サキベジ」運動のキックオフイベントを長野市のホテル国際21で開きます。ただ講演を聴く堅いものではなく、参加された方が楽しめて役に立つイベントを目指しています。第1部では内場先生にライブクッキングを披露していただき、実際にその野菜料理も食べていただきます。第2部では寺沢先生に、毎日続けられる簡単な、「脳に効果の高い運動」を教えていただき、会場の皆さんと一緒に身体を動かします。おいしく、簡単に楽しくでき、気が付いたら健康になっているというようなお役に立つ情報をお伝えします。

将来の医療費の削減、いつまでも健康的な人を増やす、そして、有意義な人生を過ごす―そういうことを長野市中に広めるために、「サキベジ」運動を展開していきたいと思います。

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