小春日に外での歩行訓練ができた
その日はまさしく小春日和だった。
数日前からリハビリの先生が「そろそろ外で歩行訓練をしてみましょう」と、声をかけてくれた。
青空の下を歩ける——その言葉がどれほど嬉しかったことか。
脳出血の手術から2年、なんどかの荒波を越えて、近くの三重公園まで歩行器を押しながら散歩ができた日が蘇った。
今年の7月の大腿骨骨折以来、再び歩くことは夢のように思えた。それが今、机に手を添えながらでも2周ほどできるほどに回復してきたのだ。
前夜から私はワクワクし、天気予報を何回も聞きながら翌朝を待った。
妻に「明日は外で歩く訓練だよ」と伝えると、30秒後には忘れてしまう彼女が、子どものように目を輝かせた。朝、目覚めた妻の表情は穏やかで、心のどこかに外へ出る喜びが残っていると感じた。
当日は、空には雲ひとつなく、陽射しは柔らかく私たちを包んだ。妻を車椅子から慎重に歩行器へと体を移した。
「秀子さん、このまままっすぐ歩こう」先生のリードでゆっくりと足を前へ出した。
「できたよ、できたよ、歩いているよ」思わず私の声が弾んだ。5メートル歩き、そして深呼吸。
「鼻から大きく息を吸って~、口から大きく吐いて~」
5回繰り返し、再び歩く。
もう一度、2メートル歩いて、また息を整え、ついには10メートルを歩き切った。小さな歩みが、私たちにとっては大きな奇跡だった。
「このまま外でお昼にしよう」そう言うと、妻は微笑んだ。セブンイレブンで買ったレタスサンドを陽だまりの中で二人並んで頬張る。
妻は一袋すべてを食べ終えた。頬にあたる風はやわらかく、空の青はどこまでも澄んでいた。長い闘いの果てに、こんな日が再び訪れるとは。小春日の陽ざしはいまも胸に残る。まさに、心まで温めてくれた「小春日」のひとときだった。